インプラントを「長持ち」させるにはメンテナンスと適切なセルフケアが不可欠

インプラントは、顎の骨に人工歯根を埋め込むという、少し特殊な治療法です。「人工臓器の一種」と捉えられることもあり、身体の一部となるイメージをお持ちの方も少なくないことでしょう。それだけに、一度治療を終えてしまえば一生涯、使い続けることができると思われがちですが、それは大きな間違いです。

 

インプラントは、天然の歯と同じように、あるいはそれ以上にしっかりとしたメンテナンスが不可欠なのです。それを怠ると、さまざまなトラブルが起こり得ます。最も危惧すべきなのは「インプラント周囲炎」です。

目次

1.インプラント周囲炎になりやすい理由

インプラントを長持ちさせるには、インプラント周囲炎をいかに予防するかが鍵となってきます。ここではそんなインプラント周囲炎について詳しく解説します。

1-1 「虫歯にならない」ので安心してしまう

インプラントは、どんなに不潔にしていても虫歯にかかることは絶対にありません。なぜなら、歯根から歯冠まですべてが人工物で作られているからです。虫歯は、エナメル質や象牙質といった天然の歯質を酸で溶かされていく病気ですので、インプラントが虫歯にならないことは容易に理解できるかと思います。そうなると、歯磨きなどがおろそかになってしまいがちですが、ここにひとつの落とし穴があります。インプラントは、歯周病に対しては極めて脆弱だからです。このギャップが一般の方には理解しがたい点かと思われます。

1-2 インプラント周囲炎は「歯ぐき」に感染が生じたもの

虫歯菌は天然の歯質、歯周病菌は歯ぐきなどの歯周組織に感染します。つまり、インプラント周囲炎のリスクというのは、インプラント治療の前後で全く変化していないといえるのです。インプラント治療後には、人工歯根が顎の骨に埋まっていますが、その周りを取り囲んでいる歯周組織は、全く同じものですよね。ただし、1つだけ変化が表れている点があります。それは「歯根膜(しこんまく)」です。

1-3 インプラントには歯根膜がない

歯を支える歯周組織は、歯肉(しにく)、歯根膜、歯槽骨(しそうこつ)によって構成されています。歯肉とはいわゆる歯ぐきのことで、歯槽骨は顎の骨を意味しますが、歯根膜に関しては、あまり具体的なイメージがわかないかもしれませんね。

 

▼歯根膜とは?

歯根膜とは、歯と顎の骨の間に存在している組織で、神経や血管が分布しています。ですから、食べ物を噛んだ時に、その硬さを感知したり、歯に強い圧力が加わり過ぎないようクッションの役割を果たしたりすることが可能となっています。さらには、歯ぐきへの酸素や栄養の供給なども担っていることから、その役割は非常に大きいといえるのです。インプラントには、そんな歯根膜が存在していないのです。

1-4 インプラントの歯ぐきは免疫力が低下している

インプラントには歯根膜が存在していないことから、周りを取り囲む歯ぐきの免疫力が著しく低下しているものとお考え下さい。つまり、天然の歯よりも歯周病菌に感染しやすくなっているのです。インプラント周囲炎も風邪などと同じように感染症の一種であることから、免疫力が低下しているところで悪さをしやすくなります。

1-5 インプラントは汚れがたまりやすい

インプラントは、天然歯よりも汚れがたまりやすい傾向にあります。上部構造と呼ばれる被せ物には、セラミックなど汚れが付着しにくい素材を使用するものの、アバットメントやインプラントとの接合部分など、天然歯にはない構造が付与されていることから、歯垢や歯石などが沈着しやすくなっているのです。これらは通常のブラッシングでは落とすことができないため、インプラント周囲炎のリスクを引き上げる要因ともなっています。

2.インプラント周囲炎になることのリスク

ここまで、インプラントがいかに周囲炎を発症しやすいかを解説してきましたが、なぜそれが最も避けるべき事態なのかも気になるところですよね。ここではインプラント周囲炎になった時のリスクについてわかりやすくご説明します。

2-1 病気の進行が早い

上述したように、インプラントには歯根膜が存在しておらず、周囲組織の免疫力が低くなっています。そのため、一度インプラント周囲炎にかかると、あっという間に病態が進行してしまうのです。つまり、歯周病でいうところの「歯肉炎」から「歯周炎」へと発展しやすいのがインプラントの特徴です。ちなみに、インプラントには「インプラント周囲粘膜炎」と「インプラント周囲炎」という特別な名前がついた病気があります。

 

▼インプラント周囲粘膜炎とは?

インプラント周囲粘膜炎とは、一般的な歯周病における「歯肉炎」を意味します。歯周病菌への感染や炎症反応が歯ぐきだけに限定されている状態ですね。この段階であれば、インプラントの歯周病であっても、完治させることが可能といえます。

 

▼インプラント周囲炎とは?

インプラント周囲炎とは、一般的な歯周病における「歯周炎」を意味します。歯周病菌への感染や炎症反応が歯ぐきだけではなく、歯槽骨にまで広がった状態です。インプラントでは、この段階まで発展しやすいのですが、一度発症してしまうと完治させるのが極めて困難となります。なぜなら、インプラント周囲炎によって歯茎や歯槽骨が下がり、アバットメントや人工歯根の一部が露出すると、除去できない汚れが多発してしまうからです。

2-2 インプラント周囲炎は完治させるのが困難

一般的な歯周炎においても、患者さん自身で十分な口腔ケアを実施するのは困難となります。深い歯周ポケット内の汚れや露出した歯根面の歯石は、歯ブラシで落とすことが不可能だからです。インプラントの根面部や連結部に付着した汚れは、それ以上に除去困難となることから、インプラント周囲炎を完治させることも極めて難しくなってしまうのです。

2-3 インプラントが抜け落ちる

インプラント周囲炎を発症し、歯ぐきや歯槽骨が溶け出すと、やがてはインプラント体が抜け落ちます。インプラントを支えている組織が破壊されるのですから、当然の結果といえます。それだけに、インプラント治療後の歯周病は絶対に予防しなければならない病気といえるのです。

3.インプラントのメンテナンスが重要な理由

インプラントを長く使い続けるためには、定期的なメンテナンスが不可欠です。その主な目的は、上述したような「インプラント周囲炎の予防」です。これはプロフェッショナルケアとセルフケアいずれにおいても、最優先事項といえます。実は、それ以外にもメンテナンスが重要な理由がいくつか存在しています。

3-1 インプラントの保証が受けられなくなる

インプラントには、基本的に保証制度が設けられています。保証を受けことができる条件や期間は、それぞれのメーカーおよび歯科医院で異なりますが「定期的なメンテナンスを受けている」という点は共通しています。ですから、インプラントに不具合が生じて修理や再治療が必要になったとしても、定期的なメンテナンスを受けていないと全額自己負担となりかねないのです。これはお口の健康面とは直接関係ありませんが、やはり経済的な問題というのも歯科治療において重要といえますよね。

3-2 噛み合わせは変化するもの

私たちの歯は、加齢に伴って日々摩耗していきます。高齢の方の噛み合わせが深くなるのはそのためです。インプラントに用いられる人工歯は、セラミック製であることから、経年的に摩耗することはほとんどありません。けれども、人工歯と噛み合う天然歯や歯列全体の噛み合わせは、徐々に変化していくことから、定期的に調整する必要があるのです。もしもこの調整を怠ると、インプラントだけが高い位置で噛み合ってしまい、多大な負担がかかることで様々なトラブルを引き起こしかねません。具体的には、人工歯の破折や連結部の故障、インプラント体の脱落などです。

3-3 連結装置のネジがゆるむ

人工歯根であるインプラント体は、顎の骨と直接結合していますが、人工歯とアバットメントはネジによって連結されていることがほとんどです。そのため、インプラントを使っていく中で徐々にネジがゆるみ、不安定な状態となってしまうことがあるのです。そうすると、人工歯が破折したり、アバットメントが故障したりするため注意が必要です。

4.インプラントのメンテナンスって何するの?

インプラント治療後は、定期的にメンテナンスを受ける必要があることは十分理解していただけたかと思います。そこで次に気になるのは、実際のメンテナンスでは何をするのかという点ですよね。

4-1 目視によるチェック

インプラントのメンテナンスでは、はじめに口腔内診査を行います。お口の清掃状態や歯ぐきの腫れや炎症の有無などを目で見て確認します。ピンセットを用いて、インプラントが揺れ動かないか、連結装置に不具合がないかなども調べます。

4-2 噛み合わせのチェック

咬合紙(こうごうし)と呼ばれる専用のカーボン紙を用いて、噛み合わせを調べます。噛み合わせのバランスが悪い場合は、人工歯を削るなどして改善します。

4-3 レントゲン撮影

インプラントのメンテナンスにおいて、レントゲン撮影は非常に重要な意味を持ちます。インプラントに不具合が生じていないかを判断する上で、顎の骨や人工歯根の状態を見ることは何より重要だからです。インプラント周囲炎が生じている場合も、レントゲン画像によって診査することができます。

4-4 インプラントのクリーニング

インプラントのメンテナンスでは、お口全体のクリーニングに加え、連結部分のお掃除も行うことがあります。これは上部構造とアバットメントをネジで連結しているタイプに限られます。

4-5 ブラッシング指導

インプラントを清潔に保つ上で最適といえるブラッシング法の指導を受けます。天然歯と同じように歯磨きをしていたのでは、汚れが堆積してしまうことから、メンテナンスにおけるブラッシング指導は非常に意義のあるものといえます。

5.まとめ

このように、インプラントを長く使い続けるためには、何よりまずインプラント周囲炎にかからないことが大切です。さらに、噛み合わせの変化やインプラントの不具合に迅速に対応することも重要といえます。これらを可能にするには、歯科医院での定期的なメンテナンスの受診が不可欠といえます。せっかく苦労して入れたインプラントですから、大切にケアして、一生涯使い続けていきましょう。

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